「良い選手がいないから勝てない」と嘆く指導者は心の底から軽蔑してる

 

 

1、「ウチのチームには良い選手(能力の高い選手)がいないから、勝てないんだよね。」

 

東京に来て、こんな事を言う指導者が関東には何人もいて、心の底からいつもガッカリしていました。

そんな事を言う指導者、皆様の周りにもいませんか?

私はこう言われるといつも同じで、

 

「じゃ、あなたは何のための指導者なの?」

 

と心の中で叫び、愛想笑いで返すしかありませんでした。

 例え、能力の高い選手が集まったとしても、チームとして機能しなければ試合で勝利を得ることはできないという事を理解していない指導者を非常に残念に思います。

良い選手(能力の高い選手)を育てるため、試合で活躍出来るように育てるのは、私達指導者の役目の1つのはず。「指導者」の役割を何だと思っているのか、そういう事を平気で言える指導者を私は心の底から軽蔑してます。

 

関東は大会数が少ない、そんな環境がそうさせるのでしょうか。

「良い選手を育てるには練習しかない」と、試合もせずに、声出しの練習やただやるだけのキャッチボール、ポジションに打つだけのノック。1人10球打つだけのフリーバッティング、ただ走るだけのベースランニングをして終わりの練習。ノックも全ての打球を前に出て捕らないといけない(全ての打球を正面衝突で捕らせようとする)、腰を落として捕ろうとしないと叱る。そんな間違った指導と「練習の練習」ばかりの繰り返し。その結果、大会ではいつも敗退。自分の指導力不足を認めずに、「良い選手がいないから無理なんだよ。このチームはそういうチーム」と嘆いてばかり。

自分の指導、練習メニューの悪さに気付けない、視野の狭い指導者を東京で多く見かけました。

 

 

 

鹿児島に帰って、このような状況を話すと全国大会で好成績を挙げている監督さんは、こんなことをおっしゃいました。

 

「練習ばかりって、何が面白いの? 楽しくやるって言っても、それ、本当にソフトボールを楽しんでるの?

試合もしないで、ただ練習だけって、指導者が一所懸命に指導してるっていう、自己満足に浸りたいだけでしょ。

ソフトボールって、試合をして初めてソフトボールなのにね。」

 

 

 

2、1つの出来事で良い選手(能力の高い選手)に成長する事がある。

 私が見てきた選手達の中には、確かに初めから上手く動ける選手がいて、器用にこなす子もいましたが、彼らがエラーして負けた試合、四球ばかりで試合にならなかった試合等、たくさんの失敗を積み重ねて、それでも励ましながら、一緒に汗をかきながら、一緒になって練習、試合を乗り越えて、中心選手になっていった子達ばかりです。

 これを読んでいる皆様のチームの中心選手はどうでしょうか?自分のチームだけでなく、他チームの中心選手達も見ていた事がありますが、他チームが羨むような上手い選手も下級生時代に、失敗を積み重ねて上手くなっていった子達ばかりと思います。

 

 

鹿児島の教え子で、私からよく怒られていた5年生のF君という子がいました。妹がいる長男坊で、性格はのんびり屋で、ミスをしてもあっけらかんとしている子。体格は大きい方でしたが、華奢で細く、足も遅い方。4年生から始めましたが、センスなんてかけらも無いような、バッティングも当たらないし、振りは波打つし、ゴロもトンネル。フライはいつもバンザイキャッチ。今にして思えば、空間認知能力が無かったので、コツコツ何度も根気よく育てるべきだったと思います。

ただ、若かった私は、他の5年生の子達に比べて、彼だけ遅れを取っていたので、何とかレギュラーを取らせたかったあまりに焦っていました。試合で打てず、練習で何度も何度も怒られていましたが、彼も毎回の練習に来てくれたのが幸いでした。

5年生以下大会の予選が近づき、当時、私は学生でもあったので、練習日以外の平日の放課後にも集まって、ティーバッティングを毎日1000球近く上げたり、ノックをして鍛えました。F君は1番参加率が高かったです。

しかし、予選大会直前、レギュラーの5番打者の5年生外野手が体育で骨折し、出場不可。そして、当日も1番打者の5年生の子が風邪を引いて、試合に出れない最悪の状態でした。

私は、レギュラーで考えていなかったF君を急遽、1番打者に起用しました。初戦は、1週間前に地区大会・下級生の部で優勝したチーム。打順を繰り上げると各打者の役割が変わり、リズムが崩れるのを恐れたため、1番打者に別の子を入れる方が良いと判断しました。

 

試合開始。先攻だったウチの1番打者F君の3球目でした。

思いっきり振って当たった打球が、センターオーバーの大飛球。普通の子ならランニングホームランでしたが、走り方がドタドタと遅く、何とか3塁へ。

 これまで活躍出来ていなかったF君の一打に、選手・指導者・保護者の全員が湧きました。続く打者は、レフト前ヒットでいきなり先制。F君がホームに返ってくるなり、みんなに祝福され、顔を赤くさせながら、自信に満ち溢れた顔をしていました。

この1点でチームの流れが出来ました。打者一巡の猛攻もあり、エースも完封でコールド勝ち。F君は2打席目もヒットを打ち、もう、イケイケ状態でした。

2試合目もF君は、ヒットを打ち、試合も2試合連続のコールド勝ち。決勝戦は体が大きい子が多く、好投手がいる優勝候補。6年生最後の大会では県ベスト8にもなる強豪でした。

試合開始後、いきなりレフトを守っていたF君の所へ打球が。強烈なレフト前ヒットでしたが、難なくキャッチ。

これまでの彼なら、トンネルやグラブをはじいて、2塁打、3塁打にしてしまっていましたが、あの一打でここまで変わるとは思いませんでした。F君はこの試合、ヒットはありませんでしたが、試合はエースが完封。下位打線が繋いで奪った2点を最後まで守り切り、地区優勝で県大会出場決定。

 

県大会では骨折や風邪を引いた5年生の子達も戻り、ベスト8まで進出出来ました。

F君は、9番打者としてレギュラー出場させ、2回戦では左中間を抜ける完璧な打球で、初のランニングホームランも打ちました。

ベスト8の試合では、剛速球投手から唯一の得点となった犠牲フライも打ち、大会を通じて、レギュラーどころか一気に主力選手にまで成り上がりました。

6年生の夏でF君は転校してしまうのですが、6年生になってからの試合では約20試合で7本のホームランを打ち、チーム2位。4番の子よりもホームラン数が多く、特に快速球の投手を得意として、好投手キラーの強打者に成長していました。

 

 

 

どんなに下手な子でも、センスがないと思っても、根気よく練習に付き合ってあげれば、いつか実を結ぶ事があります。勿論、実を結ばない事もあると思いますが、そうなりたくないから、センスがないと言われるような子をどう指導したら上手くなるかを研究するようになったのは、この子と出会ってからです。

転校してからも「鹿児島でみんなとやったソフトボールが凄く楽しかった」とF君からも親御さんからも電話で言われたのは嬉しかったです。(中学は野球部・ソフトボール部が無く、近くには強豪硬式野球チームしかなかったので、別のスポーツをやっていたと伺いました。)

彼が活躍し始めたのは、試合で打った、あのセンターオーバーの3塁打から。

まぐれでバットに当たった打球なのかもしれません。練習を一生懸命頑張ってきたからこその神様からのご褒美だったのかもしれません。

でも、試合で結果を出した事で、周りの彼を見る目が変わったのは確かで、彼も「僕って出来るんだ!」と自信を持てたと思います。試合での活躍は、練習では培えない、「子ども達の能力を飛躍的に伸ばす事が出来る場」と言うのが伝わったら嬉しいです。

活躍するための下地を作るのは練習ですが、練習だけで彼が上手くなれたとは思えません。

試合のたった1球が彼を大きく成長させたと思っております。

 

 

 

3、全国どこに行っても子ども達は変わらない。違うのは指導者の考え方。

 

ただ、こういう話をしても、

 

「全国大会で良い成績を残す、九州のチームの子達とは違うんだよ。」

 

 

と言う関東の指導者もいました。

九州で1度も指導したことがない自分達の指導力不足を認められない言い訳をする指導者は醜いものです。

別の土地で指導した経験があるので申し上げますが、全国どこ行っても子ども達の質は変わりません。違うのは指導者の考え方です。

「良い選手がウチにはいない」と嘆き、知ったかぶった指導論について語ってばかり、「試合が出来るグラウンドが無いから」等の勝てない言い訳探し、自分を正当化して逃げているだけの指導者なんかに良い選手なんて育てられる訳がない。

指導者の醍醐味は、子ども達の成長を肌で感じられる事のはずなのに、チーム数が少なく、上部大会に出場しやすいからなのか、「全国大会に行かせたい」「選抜チームを組めれば、全国制覇出来る」と、なんだか自分の地位と名誉のために指導してる大人ばかりで、そういう人達に協力したいとは思いませんでした。

 

 

 

「良い選手がいる時は頑張るよ。今は、下級生に良い選手達が揃ってるから、今年や来年は捨てて、3年後を目指そうかなと思ってる」

 

 

そんな情けない言葉を平然と放つ指導者もいました。

今年や来年の子達を捨て駒みたいに言われた彼らの身や親御さんの気持ちを考えられないのでしょうか。

そういう事を平然と言える指導者は、「私には子ども達を上手くさせる育成が出来ません」と自ら言っているようなものです。

 

 

 

4、 「全員をレギュラーには出来ないけれど、全員を上手くさせる事は出来る」

 

大阪桐蔭・西谷監督 「全員をレギュラーには出来ないけれど、全員を上手くさせる事は出来る」

2018年4月5日 朝日新聞より

https://www.asahi.com/articles/ASL443DFXL44PTIL006.html

 

 

大阪桐蔭は選手を集めているから強いと言われますが、他にも選手を集めている高校はいくつもあるのに、どうして、選手を伸ばせる高校と伸ばせない高校があるのでしょうか?

指導者講習会の講演で実際に西谷監督のお話を伺いましたが、リクルーティングの眼力が良いというのも本当だと思うし、自分の指導で伸びると感じた選手に来てもらっているというのも答えだと思いますが、何より西谷監督が、「上の野球をやらせたい」という気持ちが他のチームよりも強いのが正解だと思います。

毎年のように、社会人野球の日本選手権は全員で見に行かせ、卒業する3年生の野球を継続したいと願う選手には、一緒になってここなら活躍出来そうとか、レギュラーが近いという大学・社会人チームを進めているという記事も拝見した事があります。

 だから、レギュラーだけでなく、ベンチの子達もベンチから外れた選手達でさえも、大学で飛躍的に伸びる選手もいるのだと思います。勿論、上のレベルでも活躍出来るだけの練習を行っているから、出来る事だと思いますが、その根底には、子ども達の活躍を願って指導しているからではないでしょうか。

 

 

強いチームの指導者と弱いチームの指導者の1番の違いは、“育成への情熱の高さ“と感じます。

色んな監督さんを現場に訪れて見てきましたが、強いチームの監督さんは、鬼気迫る顔で、「何が何でも」という気迫が凄いです。たまに、間違ってもいないのにルール解釈の違いでは?と相手選手を動揺させて勝とうしている勘違いな監督さんもおりますが。(ランナーを置いた場面で、「セットが早い」とボークを誘う等)

情熱とは、厳しく指導する事ではありません。「俺についてこい」と一方的に指導する事でも、「だからお前達はダメなんだ」と上から目線で指導する事でもありません。

 

  「全員をレギュラーには出来ないけれど、全員を上手くさせる事は出来る」

 

西谷監督のように、子ども達を上手くさせたい、試合で活躍させたいって気持ちで指導する事だと私は思います。

そんな気持ちで、子ども達を指導しませんか?

こんなにも面白い、小学生男子ソフトボールなんだから、1人でも多く上手くさせて、「ソフトボールって、面白い!」と言ってくれる子ども達が増えるように、指導しませんか?

 

良い選手は必ず育てられるし、育てるもの。

子どもだから、体力の違いはあるし、ノリ気じゃない時だってあります。だけど、子ども達が頑張りたいと言うなら付き合ってあげられる環境や頑張りたいと思える雰囲気、声掛けをして、汗まみれ、泥まみれ、出来る限り一緒になって選手達が上手くなるように練習に付き合って、試合で一所懸命、活躍出来るように応援しませんか?

 

 

少子化が進み、チーム数が減っている今だからこそ、「選手全員がグラウンド内で活躍出来る感動」を指導出来ると思っております。