少年ソフトチーム運営を考える    ①~選抜チームの是非~

 近年、小学生の男女どちらのチームとも上部大会(予選を勝ち上がって進んでいく、地方大会、全国大会のこと)で勝ち上がるために、区市町村の連盟だけに限らず、役所までも巻き込んで、子ども達の競技向上、全国大会での成果を出すために、選抜チームを結成して、全国大会に出場している都道府県が多くなっています。

 実際、選抜チームでの出場で毎年のように好成績を挙げている、大阪府、神奈川県、岡山県。最近では、愛媛県、千葉県なども選抜チームを組んだチームが全国大会で好成績を挙げてきています。

 個人的には、こういう選抜チームを結成することで、地域が元気になったり、「親の教育がなっていない」と厳しい世論の声が上がる中、大人達がまとまって子どもに関して考えて、実行して教育を行っていくことはとても良いことだと私も思います。

 ただ、本当に選抜チームで出場していくことでいいのか、現場に訪れて、色々、お話を聞いてきた中で、現状をお伝えできればと思います。



1、単独チームとは?

 ここでいう単独チームとは、各都道府県に登録している、スポーツ少年団チーム、地域クラブチーム、子ども会、育成会などのチームのことです。スポーツ少年団チームは、鹿児島県、宮崎県、三重県、静岡県、茨城県、福島県などに多く、地域クラブチーム、子ども会、育成会などのチームは、大阪府、神奈川県、東京都などに多いです。

 また、福岡県、広島県、岡山県、山口県、埼玉県などは、スポーツ少年団もあれば、地域クラブチームなどもあるという都道府県内でも異なる構成のチームが存在しているため、どのチームが運営に適しているかという目線よりも、その地域ごとに派生してチームが成立したという結果で成り立っていることが多いようです。



2、選抜チームとは?

 選抜チームとは、区市町村などの一定範囲内の単独チームから選抜しているチームのことです。

ちなみに、選抜チームと言っても、高校生などの国体レベルのように、都道府県レベルの選抜チームは現在では、ないようです。予選を勝ち上がらずに全国大会に出るデメリット、広範囲過ぎて、選手を集める際に移動などの負担がかかり過ぎてしまうなどのことから、今の所は出てきていないようです。



3、単独チームとの違い

 選抜チームの練習は、毎週土曜日の午前中など、連盟などを中心に各単独チームと話し合った上で決定して、各単独チームの練習日を取りすぎない程度の範囲内で行われている選抜チームから、大会前の数日間練習をして大会に臨む、現在のプロ野球、侍ジャパン形式の選抜チームも多いようです。 



4、選抜チームの弱点

 個人の能力が高い選手が集まるがゆえに、見落としがちな弱点が、選抜チームによる試合数が少ないこと。

 単独チームで練習をしているとはいえ、連携プレー、サイン交換、意思の統一などが上手くいきにくいことが選抜チームのデメリットと言えるでしょう。実際、個人的にも以前、単独チームとして、選抜チームに勝った試合も負けた試合もありますが、勝った時は、数日間しか練習出来ていない選抜チームで、やはり連携の乱れをつくと脆く、個人個人をしっかり抑えるだけで大丈夫でしたが、私のチームが負けた選抜チームは、きちんと年間通して練習してきているチームで、連携の乱れなども少なく、流れで一気に点を取りましたが、守りきれない程、チームとして束となって来られて、最後は代打選手にヒットを打たれたサヨナラ負けで、層の厚さまでを感じる強いチームという印象でした。

 選抜チームで練習だけでなく、試合も多く行えているチーム程、意志疎通を図れて、連携プレーなどのコミュニケーションが必要なプレーから、チームとしての上昇を描いた計画を立てられているチーム程、やはり強いなあと感じております。


 ただ、そういう選抜チームをどうやって倒すかですが、ここ最近では、大阪桐蔭の西谷監督が「セオリーになり戦い方、奇襲戦法などを突いてくるチームは怖い」と講習会でお話されておりまして、年間通してしっかり練習してくるチーム程、監督、コーチの意思疎通が図れているので、そういうチームこそ、データを取って、どういう攻撃をしてくるのかの傾向を出して、それを踏まえた上での、セオリーにない攻撃、奇襲戦法だと効くのかなと思っており、大阪桐蔭が負けた試合などを研究材料としながら、考案しておりますが、ただ、それを中々、実行出来ないのが辛い状況です。(苦笑)

 初戦あたりであれば、時間があるので情報を得てからの奇襲戦法、勝ち上がった段階では、もう、体力勝負だと思います。そういう意味でもベンチ内にレギュラー組に近い選手を揃えられる選抜チームの方が有利なので、選手交代を上手く使えるかどうかの監督さんの力量勝負にもなってくると思います。



5、選抜チームのメリット・デメリット

 選抜チームの選手のメリットとしては、ソフトボールに一生懸命になりたい選手には、レベルの高い選手同士でレギュラーを競い合える最高の舞台であり、逆に進路を考えている選手、その他のスポーツも一緒に行っている選手などは、単独チームにとどまってプレーできるので、多種多様な選手をチームで生かすことが出来るのが大きいです。

 ただ、選抜チームの選手だと移動が個人になってしまうので、親御さんのご負担が通常の単独チームでの活動よりもかかりますが、ソフトボールを頑張っている自分の子供を応援したいというご父兄であれば、全然、苦ではなく、むしろ楽しんでやられている親御さんが多いようです。

 また、辛いのが、選抜チームの監督・コーチ陣。連盟、区市町村の大人達からの勝ち上がることのプレッシャーだけでなく、各単独チームの方々から預かっている選手達なので、ケガ・病気をさせたくないという点や協力していただける親御さん達への配慮など、単独チーム以上の責任、重圧を背負っていらっしゃっていると思っております。そういう重圧をいかに分散させるか、チームだけでなく、代表者など支えられる方々のお力も必要となります。

 また、選抜チームであれば、地方大会(九州、四国、中国、近畿、北信越、東海、関東、東北大会のこと)や全国大会などに出場する際の補助金、寄付金を集めやすいのもメリットと言えるでしょう。

 単独チームが全国大会に出るだけでも、お金を集めることに一苦労で、挨拶回りなど各単独チームから選抜している選抜チームの方々に比べ、慣れていないチームが多く、協力体制という点で、全国大会に出ることの大変さを思い知らされることが多いようです。




6、補強選手を入れるチーム作成の存在 

①補強選手とは?

 こうして考えると、選抜チームでの出場が良いのではないかと思える所もありますが、地域の活動状況により、それを許せない地区などもあると思います。そういった時に選抜チームに近いチーム作成で行えるのが、補強選手を入れるチーム作成。


 補強選手とは、社会人野球の全国大会、都市対抗で行われている特別ルールで、1チーム3人までが、各地区予選敗退チームから獲得して試合に出れます。実際に、都市対抗を勝ち抜くチームは、この補強選手の活躍が優勝に導く力となっています。(2014年優勝の西濃運輸が補強したトヨタ自動車の佐竹投手、2007年優勝の東芝が補強した三菱ふそう川崎の西郷選手など)


 日本ソフトボール協会のチーム登録は、6月までなので、それまでの時期に地区予選を済ませて、上部大会進出時までに、地区予選敗退チームから選手を補強して、上部大会への臨むという方法を行っている地区も実際にあります。

(※1チームの補強人数に制限ルールは、なし)

 


②補強選手を加入のメリット

 メリットとしては、選抜チーム程の力量まではありませんが、ほぼ意志疎通が図れているチームにプラスで選手を入れるという考えなので、チーム力の倍増が出来ます。

さらに、監督・コーチ達の重圧は選抜チームと変わりませんが、年間計画的に練習、試合を進めなくても指導体制が最初から整っているので、自分のチームの弱点を補える、プラスアルファをして戦えるという点が大きいです。

地区での連携が取れていれば、近隣のチームとの合同チームとしてや、数チームから1人ずつ加入するなど自由に加入出来るシステムが魅力です。

 実際、選抜チームでも年間で活動が行えず、大会前でしか集まれないようなチームであれば、予選で勝ち抜いたチームに補強選手を入れて挑むことの方が、活動しやすいのではないかとも思います。

グラウンド確保という点でもそのまま自チームのグラウンドを使えるし、補強をしたチームのグラウンドを使うことも可能ですし、全国大会に出たかったという予選敗退選手の気持ちも汲みとることが出来ます。



③補強選手加入のデメリット

 デメリットとしては、各単独チームの活動が疎かになりやすいという点。自チームとしても、補強に行った選手のチームも各単独チームの活動が停止した状態で、全国大会で活動するためのチームとしての活動になるので、各単独チームのレベルアップが止まることが大きい負担です。

 一時期の活動とはいえ、社会人野球のようにある選手がほぼ、ずっといる訳でもなく、毎年選手が入れ替わるチームが小学生なので、個人育成指導は出来ても、チームとしてのレベルアップの図り方が一定期間停止するということをどう、プラスに持っていくかという点が難しいです。



7、上部大会で成績を残すには

 全国大会、地方大会で結果を残すには、単独チーム、選抜チーム、補強選手加入チームなど、色々な活動形態がありますが、どうすれば上部大会で成績を残せるかという考えではなく、現在は各地区の活動から判断した結果によると思います。

 実際、結果は、単独チームでも選抜チームでも残せています。単独チームは、現在、九州、中国のチームが多く、成績もしっかりと残せています。


私も鹿児島で指導しておりましたが、九州は、練習グラウンドが広い場所が多く、毎週のように大会があり、年間でも100試合近く行え、単独チームの活動も平日に練習が出来る状態でもありました。

実際、選抜チームが多いのは、首都圏のチームで、グラウンドが狭く、平日の活動が難しいチームが多く、それでも全国大会で成績を残して子ども達の思い出にという思いから、結成している地区も多くあると思います。


「どちらがいいか?」ではなく、各都道府県、地区がどうやって子ども達にソフトボールを楽しんでもらえるか、活動しやすい状況を作るか、成績を残して自信を持ってもらうか、そういう考えで活動していくために取ればよいと思います。




8、今後の少年ソフトボールチームの活動の行方。~選抜チームは増えるのか?~

①少子化とプロ野球人気減少問題

 長くなりましたが、本題は、ここからです。選抜チームは今後、増えていくと思います。

 理由としては、やはり、少子化の問題とプロ野球人気減少の問題がかなり大きいです。

 サッカー日本代表に限らず、ゴルフの石川選手、テニスの錦織選手、ラグビーの五郎丸選手など各スポーツにスター選手が生まれ、マスコミも野球以外のスポーツを取り扱うことが増えてきました。

 これまでの野球人気が異常だっただけだとも思いますが、五輪から野球、ソフトボールが除外され、将来、野球、ソフトボールをやっていきたいという選手、やらせたいという親御さんが減っています。

また、スポーツではなく、勉強で良い大学、良い就職をさせたいという気持ちが以前よりさらに強くなり、学習塾に入らせたい親御さん達の熱も過熱しています。

 今後も少子化が進むので、他スポーツや学習塾との子どものパイの奪い合いがさらに加速していくと思います。


②指導者の技術指導不足

 悲しいことに、私のチームでも子ども達に好きなプロ野球選手を聞くと、「分からない」という答え、さらに、野球を見たことないという子ども達が非常に多くなっています。

 それは、テレビで野球中継をやらなくなったからです。実際に足を運んで野球を見て、ソフトボールを見て、やりたいという子はおらず、学校やクラブチームとして友達が入っているから僕も私も入ろうという理由の子達が多くなっています。


 そのため、見たことないことを行うのですから、最初から体を動かすことが出来る子、体の動かし方をイメージ出来ている子が非常に少なくなっています。そんな中で、練習、試合が出来る時間やグラウンド確保は、首都圏などになればなるほど、難しくなり、基礎練習がままならず、技術向上が難しいからこそ、指導者達の技術指導論の勉強が常々必要となっています。


ですが、ほぼ全員ボランティア指導であり、これまで野球もやったことのないお父さん達が指導者として指導している方々が多いのは、どの都道府県のチームも同じだと思いますが、関東圏内のチームには特に多いからこそ、関東の全国大会順位も下がっていると各地区の試合、練習を足を運んで見て感じました。



③上級生の試合に下級生が出る状況

 関東だけに限らず、全国的に、小学生のソフトボールチームは減少し、チームの団員数も減少している状況です。

各チーム、昔は、6年生だけで1チーム作れていた状況が、現在では、4年生、3年生がレギュラーとして入らないといけないチームが多くなり、私の予想ですが、今後、単独チームで6年生が9人以上揃うチームは、ほぼ皆無な状態に、9人以上揃えられるチームが稀有な状態になると思います。


実際、神奈川県の県大会などを見に行きますと、選抜チームのエースのとんでもなく速いスピードボールを単独チームの体の小さい3年生の子達が立ち向かっていく姿や6年生の大きい体の子達が打席に入って鋭い打球を下級生の内野手達に飛んでいく姿を見たりすると、凄いというよりも、正直、「危ない、怖い」という印象が強いです。


これは、神奈川県に限らず、各都道府県、同じだと思います。

私の指導していた鹿児島県も230チームあった登録数が現在、170まで下がり、鹿児島市内でも50チーム近くありましたが、チーム数はあまり減少していないにしても、同じくらいあった5年生以下のチームが10チームも作れなくなっている程になっております。


そんな上級生と下級生が混ざった試合では、危険が伴います。また、技術力向上としても上級生が下級生に投げれば簡単に三振は取れるし、下級生のボールなら上級生は簡単にヒットに出来るという状況が多くなれば、以前に比べて技術力は上がらなくなってくると思います。


そんな単独チームで都道府県予選を勝ち上がったチームが全国大会に出ても勝てる訳がない。

下級生が危険な目に合いやすいようなチームが全国大会に出るようになったら、地区としても考えるようになり、選抜チームを作って上級生だけで戦えるようにしようという声が上がってくると思います。



④全国大会では神奈川も勝てなくなる?

 そうなってくると、単独チーム出場ながら、好成績を挙げている九州、中国の各県が選抜チームを組んで来れば、現在、選抜チームで好成績を残せている神奈川県でも、今後、全国大会での好成績を残すことは難しくなってくると思います。

実際、横須賀選抜の方々も「九州のチームが選抜チームを組んで来たら、敵わないから、今、たくさん優勝を取ろうと必死なんだよ」と冗談交じりにおっしゃっていましたが、これが本当になるかもしれません。

 私も2010年と2015年に鹿児島に戻って、各単独チームをいくつか見ておりますが、もし、鹿児島市の選抜チームを作ったら、身長160cm以上の選手ばかり集めた身体能力抜群の大型で、とんでもないチームが出来ると思います。


 実際、現在は、神奈川県も各地区で選抜チームを組めていますが、少子化問題やプロ野球人気減少により、単独チームの数が減少しているのは確かです。

チーム数が減っていけば、選抜チームの力も衰えていく一方です。

こうなれば、神奈川県だけでなく、関東の全国大会成績も下がっていく一方で、最悪、関東の小学生ソフトボールチームも無くなってしまう可能性だってあります。





そうならないように、今後、関東の小学生のソフトボールチームはどうしていくことがベストなのかを考えた時に、


・チームを残していけるチーム運営

・技術指導の向上が出来る環境作り


の2点を挙げて、書かせていただきたいと思います。

もちろん、ぜひ、関東の指導者の皆様にもお考えいただいて一緒に小学生男子のソフトボールを盛り上げていければと思っております。



次回は、今後のチーム運営の在り方に関してです。